乾くるみ著「イニシエーション・ラブ」 (文春文庫) – 2007/4/10

2015年12月10日

img_book_inui最近読んだ本のなかで、最も印象に残った作品が、乾くるみ著『イニシエーション・ラブ』です。これはこの小説を読了した人に薦められて購読したもの。基本は恋愛小説なので、すらすらと簡単に読めるし、男女の睦事も巧みに描かれている。男の性的な心理がよくわかっているなと思ったら、作者は男性です。女性のようなペンネームだけど。

この小説については、最後の2行にトリックがあると、その知り合いから聞かされていました。それなのに、「ん?」となって戸惑い、本の帯にもあるように、二度読まないといけなかった。
悔しいけど、トリックが瞬時に解明できなかったんです。

主人公は「たっくん」です。たっくんの視点で物語が進んでいきます。たっくんは大学生から社会人になり、恋人がいて、浮気もします。ところが、このたっくん、別人なんです。要は2人のたっくんが描かれていて、名前が違うことが最後の2行で明かされます。え? どこですり替わったの? 二度読まないと、本当にわからない(少なくとも当方は)。このトリックはすげ~!と、騙されましたし、作者の才能に脱帽です。

いわば、「叙述トリック」の分類でしょうか。もっとわかりやすく言うと、ヒロインの女性(繭子)が2人の「たっくん」と交際しているのです。それを巧みに「たっくん」の視点だけで書かれているので、本書の仕掛けが簡単に見抜けないんです。いや~、これはたいしたもんだ。

たっくん(夕樹と辰也と言います。2人ともたっくんと呼ばれています)の2人の視点(主観)しか存在しないため、どうしてもこの2人の“たっくん”に感情移入してしまい、作者の仕掛けが解き明かせなかった。この構成力は凄い。ヒロインの繭子の二股がわかった時点で、あ、そういうことか、と納得させられますが、納得するためには、二度読まないといけないってことです。

この作品に触れると、この作家の別の作品もきっと紐解きたくなります。実際、当方は『リピート』を読みました。作家が売れるためには、このような素晴らしい小説を書くしかないのだと、つくづく考えさせられました。

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