志駕晃著「スマホを落としただけなのに」(宝島社文庫)

2018年11月5日

Review1105-01
いや~、傑作でした。読み始めたら、止まらず、一気読みしました。志駕晃著『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)です。正直、怖ろしい物語で、しかも、これは今の時代に誰でもが当事者になってしまいそうな話です。ちなみに、2016年の第15回『このミステリーがすごい!』大賞の最終候補作。しかし、隠し玉(編集部推薦)として、加筆修正を加え、2017年4月に宝島社文庫から刊行されました。 そして、中田秀夫監督、北川景子主演で実写映画化、今年11月2日に公開予定です。最近、テレビでも宣伝しているので、知っている人は多いと思いますが……。

主人公は、稲葉麻美という女性。黒髪の美人です。

書き出しは、こんな感じ。

【着信音が鞄の中から鳴り出した。
それは午前中の静かなネットカフェには、ちょっとうるさすぎる音だった。男は慌てて鞄を抱えて、エレベーターホールまで移動する。同時に鞄の中から泣き叫ぶスマホを取り出して着信ボタンを押そうとしたが、見たことのない待ち受け画像に指が止まる。そこには自分好みの切れ長の眼をした黒髪の美人と、にやついた顔をした見たことのない男とのツーショット画像が表示されていた。
 これは一体、誰のスマホだ。
 昨晩タクシーに乗った時に、このスマホを鞄にしまったことを思い出した。てっきり自分のスマホかと思っていたが、酔っぱらっていたせいもあり、まったく同じタイプの誰かのスマホを拾ってしまったことに気が付いた。~~~(以下略)】

この「男」が猟奇殺人犯なのですが、果たして、男は誰なのか。終盤になって、ようやくわかります。おそらく、こいつだろうと思っていましたが、案の定、そうでした(意外な人物ですけどね)。でも、最後の最後に、麻美にも、隠された秘密があって、読み応えがありました。犯人の殺人に至る動機にも違和感がなく、素晴らしい作品に仕上がっていると思いましたね。

本の解説から。

【麻美の彼氏の富田がタクシーの中でスマホを落としたことが、すべての始まりだった。拾い主の男はスマホを返却するが、男の正体は狡猾なハッカー。麻美を気に入った男は、麻美の人間関係を監視し始める。セキュリティを丸裸にされた富田のスマホが、身近なSNSを介して麻美を陥れる狂気へと変わっていく。一方、神奈川の山中では身元不明の女性の死体が次々と発見され……。】

スマホの中の個人情報が「男」にすべて盗み取られてしまいます。富田のスマホではありますが、富田が戯れの中で撮った恋人の麻美の裸の画像まで、盗まれるのです。その手口が克明に描かれ、実にリアル。ひょっとすると、この通りのことが起こっていても不思議ではありません。稲葉麻美という女性の運命は徐々に狂い始めていくわけですが、その展開はおもしろかったですね。

本書の解説で、作家の五十嵐貴久氏はこう書いています。

【予言しておく。本書によって、日本のミステリーは劇的に変わる。
十年後、出版に携わる者、もちろん読者、そしてあらゆる階層の者たちが「志駕以前」「志駕以降」というタームで、ミステリーというジャンルを語ることになるだろう。(中略)
ファーストシーンからクライマックス、そして驚愕の感動とラストシーンまで、食事、睡眠はおろか、トイレさえ行けなくなる。~~】

確かに、作品世界から、しばらく抜け出せなくなります。トイレには行きましたけど。また、こうも綴っています。

【志駕は読者が飽きやすいことを知っているのだろう。集中力が途切れないよう、さまざまな工夫を凝らしている。混乱を避け、淀みなく物語を進行していく様は、快感を覚えるほど巧みだ。】

文章も、書き慣れていると思いました。スピード感あふれる文体で、読みやすく、あらゆる情報を、誰にでも理解できるように描写しています。しかも、個々の台詞がまたうまい。新人作家の小説を読んでいると、こんな喋り方をするのかなあ、嘘くさいなあ、なんて違和感を覚える台詞があったりもしますが、本書に限ってはまったくない。これは相当にうまいですね。

だからどんどんページをめくってしまい、最後まで飽きません。

本書の弱いところは、「捜査側の描写が雑」「警察捜査にリアリティを欠く」という部分で、最終選考でそのように評されているようです。それが受賞には至らなかった理由かもしれませんが、それでも、充分に傑作です。映画化になったのも、わかりますね。

一読をすすめます。
(北代靖典)

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