村田沙耶香著「コンビニ人間」(文藝春秋)

2016年9月14日

bookreview_conbini
芥川賞受賞作の『コンビニ人間』を読みましたが、これは傑作でしょう。久々にすごく面白くて脱帽しました。男女の珍奇な性を絡ませているところも秀逸で、一気に読ませるし、こんな展開はなかなか思いつきません。この作者の他の作品を読んではいないんだけど、他の著作もぜひ読んでみたいです。

本が売れるか売れないかにもかかわってくるんですが、人が本を購入する時、何が要因で買うと思いますか?内容がおもしろいから?芥川賞受賞作だから?
すべては「感情」です。人間は感情を刺激されない限り、本を買いません。表紙のデザインが気に入ったから、タイトルが気に入ったから。或いは、書評を読んでおもしろそうだったから。作者自身がコンビニでバイトをしているから。身近なコンビニの世界が描かれていて評判がいいから……など。さらに他の本でも、「ビジネスに必要だから」「参考資料として買わないといけないから」といった具合にいろいろありますけど、要は当方も感情が刺激されてこの本を買ったわけです。ちなみに、直木賞受賞作の荻原浩著『海の見える理髪店』(集英社)はまだ読んでいません。感情が動いていないからです。

主人公の古倉(ふるくら)恵子は36歳。幼稚園の頃から変わり者として描かれています。死んだ小鳥を見て周りの子供が悲しんでいる中、彼女は母親のところへ持って行って、「お父さん、焼き鳥好きだから、今日、これを焼いて食べよう」と提案するのです。母親は驚愕し、そのようなことは言ってはならないと窘める。そして墓を作り、小鳥を埋め、周辺の花をちぎって供えたのですが、彼女は「花の茎を引きちぎって殺している」と思うのです。そんな彼女は、その後もたびたび問題を起こし、大人たちからは異質なものに見えるのです。
そして彼女が大学生の頃、「スマイルマート日色町駅前店」というコンビニエンスストアでバイトを始める。マニュアル化された世界で彼女は正常な世界の一部になれたと感じる。それから18年。彼女はコンビニの店員として普通でいられる手段を手に入れたが、その間、恋人もできないし、結婚もできない。しかし、コンビニ店員としてすべてを捧げているのです。

なんで結婚しないの?
なんでアルバイトなの?

周りからはそう言われます。
そんな時、白羽という、これまたケッタイな男がコンビニのスタッフとして入ってくる。この男、独特の考えを持ち、態度も悪く、言わば嫌われ者。すぐに白羽は辞めますが、そのあとで彼女はこの男と同棲するのです。いや、肉体関係すらないのに、結婚してもいいとまで言うのです。(まあ、取引ですけど)
このあたりの展開は実にユニークです。

「白羽さん、婚姻だけが目的なら私と婚姻届けを出すのはどうですか?」
自分の席に二杯目の白湯を置いて椅子に座りながら切り出すと、白羽さんが、「はあ!?」と大声を出した。
「そんなに干渉されるのが嫌で、ムラを弾かれたくないなら、とっととすればいいじゃないですか? 狩り…つまり就職に関してはわかりませんが、婚姻することで、とりあえず、恋愛経験や性体験云々に対して干渉されるリスクはなくなるのでは?」
「突然なにを言ってるんだ。ばかげてる。悪いですけど、僕は古倉さん相手に勃起しませんよ」
「勃起? あの、それが婚姻との何の関係が? 婚姻は書類上のことで、勃起は生理現象ですが」

何ともはやすごい展開です。さらにこんなシーンも。

「取引といっても、報酬は必要ありませんよ。あなたは僕をここにおいて、食事さえ出してくれればそれでいい」
「はあ……まあ、白羽さんに収入がない限り、請求してもしょうがありませんよね。私も貧乏なので現金は無理ですが、餌を与えるんで、それを食べてもらえれば」
「餌……?」
「あ、ごめんなさい。家に動物がいるのって初めてなので、ペットのような気がして」

最後に主人公は自分が何者かに気づく。白羽との会話で、こう言っています。
「気が付いたんです。私は人間である以上にコンビニ店員なんです。人間としていびつでも、たとえ食べていけなくてのたれ死んでも、そのことから逃れられないんです。私の細胞全部が、コンビニのために存在しているんです」

この発想はすごいなあ。
終盤からさらに読ませます。本を読む時間がものすごく充実したものでありました。こういう作品に触れられることは人生を豊かにするのではないでしょうか。共感するところも多いと思います。著者の言葉のチョイスのセンスが光ります!
(北代靖典)

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