村田紗耶香著「消滅世界」(河出書房新社)

2017年2月14日

syometsu-sekai村田紗耶香著『消滅世界』(河出書房新社)を読みました。『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、今や注目の作家です。著者はこれまでも、数々の賞を獲っていますし、独特の世界観は素晴らしいと思います。
 ちなみに、1979年千葉県生まれ。2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞してデビュー。2009年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞と、まさに文壇のエリートですね。

さて、本作は、夫婦は性交せず、男性も妊娠できるようになり、空想のキャラクターに恋をする近未来の話。主人公・坂口雨音が生きるのは、人工授精の普及により多くの人間達が交尾をしなくなった世界なのです。

本の帯には、【「セックス」も「家族」も、世界から消える……日本の未来を予言する衝撃作】とあります。作家の中村文則は、〈壮大な世界。でもこれは母と娘の物語ではないだろうか。さすが村田沙耶香。この作家はすごい。〉とコメントしています。

人工授精で子供を産み、夫婦間のセックスは近親相姦とタブー視される世界。そんな世界において、主人公は普通のセックスによって誕生した子供なのです。だからそれを隠して生きています。これはもう、完全にSFです。でも、物語はリアリティがあり、おもしろいです。

(以下、本文から抜粋)

母は二階の小さな和室にベッドを置き、母はベッドで、私は横に敷いた布団で眠った。母はいつも、古いお伽噺を読み聞かせるような口調で、自分と父のなれ初めを話して聞かせた。
「お父さんとお母さんはね、とっても好き合ってたの。恋に落ちて結婚して、愛し合ったから雨音が生まれたのよ」
「うん」
 私は素直に頷いた。

↓(中略)

私の話を聞いた担任の先生は困惑した様子だった。
「……ええと……昔はそういう方法で妊娠する人が多かったのよ。お母さんは、きっと科学の発達の歴史を、雨音ちゃんに勉強して欲しかったんじゃないかしら」
「いえ、私はそうやって生まれたんだって、母が言ってたんです」
「まあ……ええと……」
「母はおかしいんでしょうか? 嘘をついているんでしょうか?」
「……そうね、こんど家庭訪問があるから、少し先生もお母さんとお話してみるわね。きっと、お母さんは勉強熱心なだけなのよ」
 だが家庭訪問に来た先生にも母はあけすけに、自分が性行為で私を妊娠したことを話し、仰天した先生がつい同僚に漏らして、職員室で話題になってしまった。
 話はいつの間にか、PTAにまで広がった。男子からは学校で下品な言葉でからかわれた。
「お前んちって、父さんと母さんがヤッて生まれたんだろ? そういうのキンシンソウカンっていうんだぜ、うげー、気持ちわりー!」

何ともリアルな会話です。SF映画だと、主人公は異端として暗殺命令が下り、組織に追われて……。そしたら異端の仲間たちがいて……って、なるんでしょうけど。そうはなりません。

主人公がどう生きていくのか。それがこの物語の骨子です。
「性」という概念が希薄になった世界は、果たして異常なのか。そんな中で正常に生き続ける女性の物語です。
それにしても、この作家は、ぶっとんでいますね。でも、それは作家にとってすごく大切な要素だと思うし、舞台設定に違和感がないでもないけど、この世界観はおもしろいと思いました。想像力が半端ないです。
(北代靖典)

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