歌田明弘著「電子書籍の時代は本当に来るのか」(ちくま新書)

2017年12月11日

denshisyoseki2010年に出版された新書ですが、内容は実に興味深いです。ご存じのように、随分前から「電子書籍の時代が来る」と言われ、一時期は「電子書籍元年」と大騒ぎされたこともありました。でも、そのわりに大したことは起こらなかった。

これから電子書籍の時代は来るのか?

著者は今後何が起こるか、いくつかのケースをあげ、最終的には「紙の本は、しだいに著作のなかで『売れ筋』のものに絞られ、特権的な存在になっていくだろう。そしてますます多くの著作が紙の本を経ず、デジタルのかたちでまず発表されるようになる。」と言っています。同感です。

それにしても、ケータイ小説の出現は、驚きでした。今でも、WEBで小説を発表している人は多いし、ケータイ小説から単行本化された書物もある。

「ケータイ小説の出現を見てもうひとつ気づくのは、『完成度の高さ』はかならずしも重要ではないということだ。
 これまでメディアの情報発信者は完成度を高めて送り出してきた。
 小説ならば、文章の技術を磨き、プロの校正者の手を経て完成度をさらに高めて刊行された。
 しかし、受け手がもっとも重要に思うのは、かならずしもそうしたことではなかった。どういうものが最優先されるかはそのときどきで変わるにしても、たとえばケータイ小説ならば、それは『共感できる物語』かどうかということだろう。
 そうした観点からいけば、小説の技術などは二義的なものでしかなかった。」(本文より)

確かに作者の言う通りでしょう。これまで文章レベルの低いものが多かったし、それでも爆発的に売れたものもたくさんあったのではないでしょうか。それはケータイ小説が成長期だったからだと筆者は考えています。成長期から成熟期に入ると、当然ながら、小説の技術もいっそう求められる。レベルが低いと、その点を批判されかねないからです。これからはもっと良質なケータイ小説やWEB小説が現れるでしょう。

「ニュース記事は無料」の時代は終わるのか?

今、多くのニュース記事が無料で読めますが、一方で有料記事もありますね。
日本では2010年3月、日本経済新聞が「ウエブ刊」と称してウエブでの課金を始めました。そのまま読める無料記事も多く、また登録すれば無料で読める記事もありますが、開始1か月の時点で有料会員が6万人を超えたと言います。値段も電子版と印刷版の内容を比較すると、電子版のほうがお得です。

日経新聞電子版

日経電子版は、申し込み月無料!|日経電子版 広報部

さらに電子版のメリットは、印刷版の記事に加えて電子版独自の記事も読めることです。しかし、作者も言っていますが、「新聞離れし始めた層にとっては、日経にこだわるにしても、かなりの記事が読めるとあっては月4000円(筆者注:現在4200円)をわざわざ払おうとはしないかもしれない。」

他の新聞社でも電子版を導入し、定期購読型の課金だけでなく、記事単位の小額課金もある。

「~~いまでもパソコンや携帯電話では若者もニュースを読んでいる。若者がニュースを読まないわけではない。また、携帯端末ではコンテンツやサービスにお金を払っているのだから、コンテンツを買わないわけでもない。
 言えるのは、若者が『紙の新聞』を購入して読まなくなったということだ。」(本文より)

もし今、印刷版をやめれば、ほとんどの新聞社の収入は、どんなに多めに見ても10分の1以下、100分の1になったとしても不思議ではない。しかし、全体の「9%が課金に応じればそれで十分」と、アメリカの新聞社では発表しています。それで運用できるということでしょう。

書籍については、難しい問題がひとつある。「再販制」です。

再販制度

再販制度 | 一般社団法人 日本書籍出版協会

新刊の書籍は安売りはできないし、新刊本は値段が決まっています。書店にしても、売れ残れば返品ができる。しかし、電子ブックは紙代や製本代がいらず、紙の本よりも2割程度安くなっています。同一内容の本に違う値段がつけられているのです。「紙の本も電子書籍も値段は同じに」というのであれば、紙の本も再販制度適用外に、ということになります。
「つまりは新刊電子書籍が再販制度崩壊の引き金を引くことになる。」(本文から)ということ。

1つ、おもしろい事例があります。
ある出版社が、和菓子の単行本を以前、出版しました。その理由は、和菓子や洋菓子を紹介したブログやグルメサイトが爆発的なPVを稼いでいたのを知ったからです。さらにグルメ雑誌でも和菓子や洋菓子特集が人気なのに目をつけました。で、和菓子の歴史を調べ上げ、本格的な読み物として一冊の本にまとめたのです。

ところが――

その単行本は売れませんでした。結局、インターネットで無料で読めるのに、わざわざ高い金を出してまで買わないということ。

ネットで無料で読めるから多くの人が見るのです。
要は課金制度がもっと増えなければならない。「ネットの情報は無料」ではなく、課金ビジネスが成り立てば、電子書籍の時代が本当に来るに違いない。

「課金が、まだネット上にない重要なコンテンツをネットに誘い出す『呼び水』になるとともに、課金によってネット上にあるすぐれたコンテンツの活力が増大することが望ましい。課金は、ウエブというメディアの衰退のためだけではなくて、より多くすぐれたコンテンツにアクセスでき、書き手がより自由に活動できるようになるためにおこなわれるべきだ。」(本文より)
(北代靖典)

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