葉真中顕著「絶叫」(光文社、2014年10月20日初版1刷発行)

2016年2月8日

book-review_zekkyo
最近読んだミステリー小説のなかでは、もっとも感動した作品です。
本の帯には、こうあります。
「鈴木陽子というひとりの女の壮絶な物語。
涙、感動、驚き、どんな言葉も足りない。
貧困、ジェンダー、無縁社会、ブラック企業…、見えざる棄民を抉る社会派小説として、保険金殺人のからくり、孤独死の謎…、ラストまで息もつけぬ圧巻のミステリーとして、平凡なひとりの女が、社会の暗部に足を踏み入れ生き抜く、凄まじい人生ドラマとして、すべての読者を満足させる、究極のエンターテインメント!」

著者は第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、ミステリー作家としてデビュー。本作は第2作目で、著者によれば、新人賞受賞がまぐれではなかったことを証明するために、1年半かけて書き上げた作品だという。

一読しただけで、すごい作品だと思いましたね。

この小説は、複雑な構成になっています。構成力の巧みさは、ミステリー小説にはかかせません。主人公の「鈴木陽子」が1973年10月21日に生まれてから2014年3月4日に同名の女性が変死体で発見されるまでの約40年の歳月をこの小説は描いています。
描き方は、三層構造です。

物語は、
「その部屋には、死の海が広がっていた。」で始まり、国分寺警察署刑事課の奥貫綾乃(女性)の視点になっています。三人称なんですね。部屋で猫11匹とともに死んでいた女性が「鈴木陽子」です。死体は猫に食われ、無残な状態で、発見者はマンションのオーナーでした。
死亡していた「陽子」について、1人の女性刑事が捜査していくわけです。

ところが、次の段階で、今度は、
「声が、聞こえる。
あなたの名前を呼ぶ、声が。――陽子、あなたが生まれたのは一九七三年一〇月二一日。
まだ年号は昭和で、~~~」
という具合に、誰かが「あなた」(陽子)に語りかける二人称になります。「あなた」を産んだとき母は二四歳、父は二六歳……。やがて父が失踪します。その理由は借金ですが、次第に家庭がおかしくなっていく。弟も自殺。平凡なひとりの女性は男と恋愛し、さらに生きていくために売春や保険金殺人を犯すのです。

一方で、「カインド・ネット」というNPO法人の代表理事、神代武という男が殺されているのがわかり、捜査が始まるのですが、これについてはすべて「証言」という形で物語に加えられています。捜査した警察官の証言をはじめ、元従業員の証言などですが、この証言によって、このNPO法人で「陽子」が働いていたことも判明します。保険金殺人のからくりも、わかります。

要は、三人称(刑事視点)、二人称(あなたへの語り)、一人称の証言と、三層の複雑な構成です。なのに作者の筆力で、何の違和感もありません。むしろどんどん引き込まれていっちゃうんですね。特異な物語ですけど、主人公の不幸な部分にすごく共感できるのです。

途中で、「陽子」が離婚、結婚を繰り返していることが警察の捜査でわかってくる。変死体で見つかったこの女性の「謎」が少しずつ解き明かされていくのです。それにしても、鈴木陽子の半生は凄まじい。いったいどうなるのか、読者はページをめくらざるを得ません。

さらに、最後にもうひとつ、とんでもない仕掛けが用意されていました!

「あなた」と語りかけていたのは誰か?

物語の終わりの部分で、あるホームレスが少年4人に襲撃され、殺害されます。実はこのホームレスが「陽子」の失踪していた父親だとわかる。警察はDNA鑑定を行う。ところが、変死体で見つかった「陽子」とはDNA鑑定が一致しなかったのです!

「ん?」

どういうこと?

ネタばらしは避けますが、まさにどんでん返し、衝撃のラストです。これぞ究極のエンターテインメントでしょう。
ミステリーファンも、ミステリー小説を書こうとする方も、まだお読みでなかったら、絶対におすすめしたい一冊ですね。
(北代靖典)

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