吉田隆著「紀州のドン・ファン殺害『真犯人』の正体 ゴーストライターが見た全真相」(講談社+α文庫)

2019年1月12日

吉田隆著紀州のドンファン紀州のドン・ファン事件は、ワイドショーで随分と取り上げられました。同時に様々な憶測が飛びましたが、今も未解決です。当初は新妻が犯人なのではとか、家政婦が妖しいとか、まあ、何十億という遺産が絡んでいますので、人々が色めき立ったのも当然でしょう。警察の捜査は進んでいるのか、いないのか。いや、進んでいるとは思うけど、絞り込めていないのか。だから本書によって真犯人の正体がある程度わかるのかと思いましたが、本書を読んでもわかりませんでした。

あとがきには、こうあります。

【殺したのは誰なのか――私は事件後、朝から晩まで考え続けている。だが、決め手はまだ見つかっていない。
だから、私はすべての取材ノートを公開することにした。
ここには、警察の捜査資料に匹敵するほどの、重要な情報が詰まっていると自負している。事件解決のヒントも、きっと隠されているはずだ。
全国の名探偵諸氏が、知恵を絞って推理してくれることを願っている】

著者は紀州のドン・ファンこと野崎幸助氏の自伝本のゴーストライターで写真週刊誌のFRIDAY初代張り込み班のチーフ。今もスクープ記者として活躍している人です。

本書には、事件前、事件後のことが克明に記されています。紀州のドン・ファンは特異な人物ですが、新妻もキャラが立っていますね。アダルトビデオに出演していた過去や「セックスはしていません」と発言するなど、興味はつきません。

本書の章立ては以下。
《目次》
第一章 社長が死んだ
第二章 ドン・ファンという男
第三章 覚醒剤とアダルトビデオ
第四章 新妻との出会いと結婚
第五章 悲劇の序章
第六章 警察、マスコミ、弁護士 それぞれの思惑
第七章 「赤い遺書」と消えた2億円
第八章 残された女たち
終章   殺したのは誰だ

死因は「急性覚醒剤中毒」とされています。当初は「急性循環不全」でしたが、体内から多量の覚醒剤成分が検出されたのだと言います。では、その覚醒剤のルートは?

これについて作者は次のように書いています。
【毎日新聞や週刊新潮の報道では、ドン・ファンの身体に注射痕はなく、覚醒剤を口から飲んで摂取したとされている。これは、和歌山県警が公式に発表した事実ではないが、警察がリークしているのは間違いない。
誰かが無理やり、社長に覚醒剤を飲ませたのか? そんなことが可能なのか?
そもそも、死因は本当に覚醒剤なのか?】

社長が死んで得をするのは誰か。殺人には動機があってしかるべきでしょう。もちろん無差別の動機なき殺人もあるでしょうけれど。

【一般的に疑われるのは、「被害者が死んでいちばん得をする人物」か、「被害者のことを殺したいほど恨んでいる人物」である。
ドン・ファンが死んでいちばん得をするのは、間違いなくさっちゃんだ。
(中略)
だが、ここで疑問が湧く。
いちばん疑われる人間が、たった結婚3ヵ月で殺したりするだろうか?】

ドン・ファンは77歳でした。時間が経てば、何年かすれば亡くなるでしょうから、わざわざ覚醒剤を飲ませて殺害するのは不自然です。では、自殺か? 愛犬イブの告別式をわざわざ計画していたのに、その前に自殺するのも不自然です。

いったい誰が?
ミステリー小説なら、犯人が最後にはわかるものですが、本書でも結局は不明のまま。もやもやが残りました。
(北代)

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