住野よる著「君の膵臓をたべたい」(双葉社)

2016年12月27日

book-review_kanzou

単行本『君の膵臓をたべたい』を読みました。本屋でふと見つけて購入したものです。
帯に「60万部突破 映画化決定!!読後、きっとこのタイトルに涙する」と書いてあったから手に取りました。それにして、タイトルのインパクトが凄い。猟奇的なミステリー小説かと思っちゃいましたが、さにあらず。簡単に言うと、ヒロインが亡くなる恋愛小説です。

先に感想を述べると、ヒロインが死亡し、主人公の「僕」が泣くところで、一緒に少しだけ泣いてしまいました。涙腺がゆるいのです。ネットでは、批判もあるようですが、少なくとも当方は感動しました。

本作は住野よるのデビュー作です。小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿したところ、ライトノベル作家の井藤きくの目に留まり、双葉社に紹介されて、出版に至ったようです。
実際、一般文芸書扱いながら、文章的にライトノベルチックな表現が目立ちます。でも、違和感はありません。ラノベと一般文芸の境目は最近、それほどありませんから。

本文の書き出しはこんな感じ(本文の前に、終わりの部分が解説的に加わっています)

【「君の膵臓を食べたい」
 学校の図書館の書庫。ほこりっぽい空間で本棚に並べられた書籍達の順番が正しいものか確認するという、図書委員としての任務を忠実にこなしている最中に、山内(やまうち)桜(さく)良(ら)がおかしな告白をしてきた。
無視しようかと思ったけど、この空間にいるのは僕と彼女だけで、ひとり言というにはあまりに猟奇的なそれは、やっぱり僕に向けられているんだろう。
仕方なく、背中合わせに本棚を見ているはずの彼女に反応してあげる。
「いきなりカニバリズムに目覚めたの?」
彼女は大きく息を吸って、ほこりに少しむせてから、意気揚々と説明を始めた。僕は彼女の方を見ない。
「昨日テレビで見たんだあ。昔の人はどこか悪いところがあると、他の動物のその部分を食べたんだって?」
「それが?」
「肝臓が悪かったら肝臓を食べて、胃が悪かったら胃を食べてって、そうしたら病気が治るって信じられていたらしいよ。だから私は、君の肝臓を食べたい」
「もしかして、その君っていうのは僕のこと?」
「他に?」
くすくす笑う彼女もこちらを見ず仕事に従事しているようだった。(以下略)】

ここで、膵臓を食べたいというのは、そういう意味だとわかる。
主人公の高校生の僕と桜良の出会いは4月の病院でのことだった。
ロビーのソファに1冊の本が置き忘れてあるのを僕が発見して手にとると、それは「共病文庫」という彼女の日記で、どうやら膵臓の病気で余命わずからしく、僕はそれを知る。
興味本位で覗いたことによって、身内以外で唯一、彼女の病気を知る人物となるのだ。

そして僕は「山内桜良の死ぬ前にやりたいこと」に付き合うことになる。僕と桜良という正反対の性格の2人が、仲良くなっていく。2人は決して恋人同士ではなく、キスすらもしないわけだけれど、互いに「必要」となる。このあたりの描写はなかなかうまいですね。

また、主人公の名前が【〇〇】で表現されるいるのが新鮮で凝っています。
主人公の名前は最後に明らかになるのだけど、それまでは、【秘密を知ってるクラスメイト】くん、【地味なクラスメイト】くんなどと表現されています。

最後の最後まで、退屈することなく、読めました。
ライトノベル的な表現方法も多く、批判的な意見もわかります。
批判のひとつは「病気の設定がファンタジーすぎる」というもの。確かに膵臓の病気について、ほとんど詳しく書かれていません。余命1年くらいだと、どういう状況なのか。まったく紹介されていないので、ちょっと残念です。しかも、ヒロインは退院し、病気で死亡するのではなく、別の死に方をします…。

今、小説にセオリーなんて必要ないと思います(新人賞応募作にはセオリーは必要でしょうけど…)。当方は素直におもしろかったし、少しですが、泣けました。小説を読んで泣くなんて久しぶりです。60万部(60万人)のうち、小説を普段あまり読まない人がきっとかなり読んでいると思います。読みやすく、感情移入しやすい物語でしょう。
「タイトルまで含めて作品」だとすれば、このタイトルは素晴らしい。インパクトだけでなく、物語に充分に合致しています。投稿サイトから書籍化された作品で60万部(現在)、映画化決定。女性だけでなく、男性をも泣かせる青春小説はあまりないと思いますね!(まあ、泣けない人もいるでしょうけど)
(北代靖典)

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