島本理生著「ナラタージュ」(角川文庫)

2016年12月3日

review_natarajyu『ナラタージュ』を読みました。映画化決定。2017年秋全国ロードショーで、出演は松本潤、有村架純。きっとさらに文庫本も売れることでしょう。

この作品は何とも魅力的な青春小説です。主人公は大学生の「泉」。元教え子である主人公とその先生だった「葉山先生」との恋愛小説なんだけど、とにかく、印象的には妙に切ない物語です。

泉は高校時代から葉山先生のことが好きだった。しかも、葉山先生もまた教え子である泉が好きだった。でも、二人が結ばれるには随分と時間がかかる。
というのも、葉山先生には奥さんがいるからです。ただ、事情があって別々に暮らしている。やがて泉に恋人ができると、葉山先生はそれを応援する。

物語の前半はとくに大きな事件は起きない。平凡なストーリーなのだけれど、決して退屈ではない。文体の魅力と何かが起こりそうな予感がずっと続く。泉は理性的だし、恋人は好青年だし、葉山先生は見守っているだけだし……。

ようやく後半になって物語が動く。泉の恋人は葉山先生に対する泉の感情に嫉妬するかのように、少しずつ病んでいく。ひたすら優しい葉山先生も、ずるいところが垣間見えてくる。

泉は恋人と付き合いしていても、葉山先生のことが好きだから忘れられない。結局、恋人と別れた泉は、ついに葉山先生と結ばれる。しかし、関係は長くは続かなかった。葉山先生はいつでも、泉に迷惑をかけてはいけないと思っているからで、なんとも控えめ。

別れのシーンはこんな感じになっている。

「あなたはひどい人です」
私は叫んだ。
「これなら二度と立てないぐらい、壊されたほうがマシです。お願いだから私を壊して、帰れないところまで連れていって見捨てて、あなたにはそうする義務がある」
「無理だ。僕にはできない」
「それならもう二度と私の前に姿を見せないでください。そしてどこか遠く離れた場所で幸せになって。自分だけ幸せになって憎たらしいと、あなたのことなんかどうでもいいと思わせて」
 分かった、と彼は言った。
「約束する。僕は君のまったく知らない場所で幸せになる。だから君も約束してくれ。僕が去った後も無事でいることを。(以下略)」
 約束はできないと私は言った。
「だけどきっと私はそうすると思います。今日のこともいつか思い出さなくなる。そしてまた、ほかのだれかをこの人しかいないと信じて好きになる。あなたに対してそう思ったように」

別れ方も切ない。おそらく男性作家には書けないのではないか。

ちなみに島本理生は、2001年『シルエット』で第44回群像新人文学賞優秀賞を受賞。03年、都立高校在学中に『リトル・バイ・リトル』が芥川賞候補に。同年、野間文芸新人賞を史上最年少で受賞。本作は05年の書き下ろし恋愛長編小説。
(北代靖典)

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