田中泰延著「読みたいことを、書けばいい。」(ダイヤモンド社)

2019年10月22日

田中泰延著「読みたいことを、書けばいい。」(ダイヤモンド社)

ブックレビュー・読みたいことを書けばいい
文章読本の類は、かなり読みました。プロ作家が書き上げたものから、文芸評論家、あるいは、小説新人賞の下読みの方の作品までさまざま。その手の本は本屋に随分と氾濫していますね。参考になる書物もあれば、つまらないものも多々あります。

そこで、今回は、田中泰延著『読みたいことを、書けばいい。』を取り上げます。
大型書店に平積みになっていて、手に取りましたが、これまでにない切り口に「なるほど」と驚かされました。特に技術的なことが書かれているわけではありませんが、〝書く〟という行為において参考になります。まさに「人生が変わるシンプルな文章術」と言えるでしょう。

構成は以下。

序章 なんのために書いたか
――書いたのに読んでもらえないあなたへ
第1章 なにを書くのか
――ブログやSNSで書いているあなたへ
第2章 だれに書くのか
   ――-「読者を想定」しているあなたへ
第3章 どう書くのか
――「つまらない人間」のあなたへ
第4章 なぜ書くのか
――生き方を変えたいあなたへ
おわりに いつ書くのか。どこで書くのか。

271ページの単行本ですが、文字が大きいし、余白もふんだんにあるので、すぐに読めちゃいます。

本書は文章テクニック本ではありません。作者もはっきりと次のように示しています。

本書は、世間によくある「文章テクニック本」ではない。わたしは、まがりなりにも文章を書いて、お金をもらい、生活している。だが、そこに「テクニック」は必要ないのだ。

あなたはテクニックを学んで、テクニックの習得が謳う効果・効能・利益・収入を手にしたことがあるだろうか。わたしは、わずか100冊程度だがダイエット本を読んで確信した。テクニックは、役に立たない。全く痩せる気配がない。
(中略)
本書では「自分が読みたいものを書く」ことで「自分が楽しくなる」ということを伝えたい。いや、伝わらなくてもいい。すでにそれを書いて読む自分が楽しいのだから。

自分がおもしろくもない文章を、他人が読んでおもしろいわけがない。だから、自分が読みたいものを書く。

逆に言うと、自分が読みたいものを書くテクニック本とも言えますね。

文章読本と言えば、著名な作家が著したものが有名です。谷崎潤一郎『文章読本』、三島由紀夫『文章読本』、丸谷才一『文章読本』、向井敏『文章読本』、井上ひさし『自家製文章読本』など。かつては、このタイトルが流行りました。もちろん読まないより、読んだ方がいいですが、基本の論調は、「文章上達の要諦は名文を読むに尽きる」ということでしょう。
筆者もすべて読みましたが、何が書かれているかというと、多くの〝名文〟が紹介されていて、このように書きなさいというものだった。
他にも、著名な作家が書いたもので、大沢在昌『売れる作家の全技術』、貴志祐介『エンタテインメントの作り方 売れる小説はこう書く』、三田誠広『深くておいしい小説の書き方』、森村誠一『小説道場』、ディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』などもあります。これらは、執筆するうえで、参考になりました。

でも、「自分が読みたいものを書く」という文章術は初めてではないでしょうか。
本書は、数時間で読めてしまいますが、それでも、意識に深く響くものがありました。

物書きは「調べる」が9割9分5厘6毛
つまり、ライターの考えなど全体の1%でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。

そうかもしれません。特にライターはそうでしょう。小説はちょっと違うかなとも思いますけどね。

作者はこうも言っています。

自分が読みたくて、自分のために調べる。それを書き記すことが人生をおもしろくしてくれるし、自分の思い込みから解放してくれる。何も知らずに生まれてきた中で、わかり、学ぶということ以上の幸せなんてないと、わたしは思う。
自分のために書いたものが、だれかの目に触れて、その人とつながる。孤独な人生の中で、だれかとめぐりあうこと以上の奇跡なんてないとわたしは思う。

書くことは、生き方の問題である。

自分のために、書けばいい。読みたいことを、書けばいい。

そうです、自分が読みたいものを書かなければ……。
(北代)

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