矢月秀作著「狂犬」(廣済堂文庫) – 2013/3/7

2016年2月8日

book-review_kyoken『もぐら』を読み、いきなり、ファンになってしまいました。といっても、まだ駆け出しのファンですが、今回は古本屋で見つけた『狂犬』をご紹介します。
いつものように先に解説に目を通しました。

凶悪犯捕縛に燃える警視庁捜査一課刑事・神条俊輔は、その非情な逮捕手口から裏社会では「狂犬」と恐れられている。いま神条は自分の妻子を殺した銀行強盗の永倉を6年間、追い続けているが、その永倉一味が沖縄にいるらしいとの情報が入った……。渾身の長編ハード・アクション、待望の文庫化!
(解説文から)

なんだよ、おい、主人公の設定が「もぐら」そっくりじゃないか。もぐらの主人公も警察官で、妻と娘を殺され、やがて刑事を辞め、闇社会で生きていく。そしていろんなトラブルを解決し、悪人を殺して戦う、とんでもないヒーローです。こちらの主人公は現役の刑事ですが、妻子を殺されています。もぐらと似ていますね。

ところが、この作品では、永倉という男が主役と言っても過言ではないくらい、悪の権化として描かれています。そういう意味では、また違った魅力がこの小説にはあります。

永倉がどんなにえぐいか。えぐい、なんて表現をしてしまうほど、えげつない男です。いや~、まいった。

そして永倉の部下もまた強烈。

対立する武闘派ヤクザを銃器で簡単に殺してしまうのですから。

「乾いた音が響く。弾幕が部下たちを襲う。あちこちで逃げ惑う者の喚声が上がる。耳がちぎれ、指が飛び、目玉は抉られ、頭蓋骨は割れて吹っ飛ぶ。腹を撃ち抜かれた男が内臓を吐き出す。
表にいた仁科(武闘派ヤクザ)の部下たちが庭へ駆け込んでくる。
それを見て、スキンヘッドの男(永倉の部下)が手榴弾を握った。ピンを口で引き抜き、人の固まりに投げ込む。まもなく爆発し、炎の中に人影が舞う。~~」(本文から。カッコは筆者)

手榴弾を投げたり、バズーカまで撃つのです。そりゃ何人も死者が出ますよね。警官だって死んじゃいますから。

物語は、永倉一味が銀行を襲う話ですが、最後には永倉と神条の一騎打ちが用意されています。このシーンは圧巻です。

本格派の警察小説というのは、これまで『マークスの山』(高村薫著)やら『臨場』(横山秀夫著)やら、読み応えのある骨太なものが多かった。要は地道な捜査によって凶悪犯人を追いかける刑事たちの群像劇が主流だったと思う。
でも、今の時代、そんなんじゃもう、つまらない。この小説では警察相手にバズーカをぶっ放すんですから。むちゃくちゃだな。でもおもしろい。そんなお手本のような痛快な小説です。

(北代靖典)

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