高橋源一郎著『さようなら、ギャングたち』(講談社文庫)

2017年6月26日

sayonara-gang
『さようなら、ギャングたち』を読みたくて、アマゾンで注文し、取り寄せました。高橋源一郎の長編小説。1981年に第4回群像新人長編小説賞の優秀作に選ばれた作品です。そう、著者のデビュー作です。人々が名前を失った世界を舞台にした語り手の物語を、古典文学から現代まで様々な引用を散りばめながら断章形式で描いた作品ですが、これ、評論家の評価も完全にわかれていますね。
新人賞の選考委員の1人も「お手上げだった」と言っていますが、残りの方は高く評価しています。いったいどんな作品だろうと、読んでみました。

物語は、第一部「中島みゆきソング・ブック」を求めて。第二部詩の学校、第三部さようなら、ギャングたちの三部構成。
プロローグでは、どことなくユーモラスなタッチで、「ギャングども」が大統領を襲ったことが描かれていて、第一部の書き出しはこんな感じ。

 昔々、人々はみんな名前をもっていた。そしてその名前は親によってつけられたものだと言われている。
 そう本に書いてあった。
 大昔は本当にそうだったのかも知れない。
 そしてその名前は、ピョートル・ヴェルヘーボンスキイとかオリバー・トゥイストとか忍海爵とかいった有名な小説の主人公と同じような名前だった。

『さようなら、ギャングたち』は、ゆるやかなストーリーの流れはあるものの、ほとんど断片的な文章の集合で、文章はわりと平易だけど、内容はなかなかつかみづらい。最後までほんとにわかりづらいのです。実は当方も「お手上げ」でした(笑)。第三部は、比較的わかりやすいけど……。これは評価がわかれるでしょう。でも、もの凄く作品に熱があります。これを世に出した作者がただ物ではないのは理解できるけれども、この小説を読んでも、他の作品にも触れてみよう、とはならない。この一冊で充分に満足してしまいました。

ただ、『一億三千万人のための小説教室』 (岩波新書)などを読むと、高橋氏の文章への取り組み方がわかっておもしろい。小説のおもしろさとは何か、作者は完璧なまでに理解しているのですね。小説が好きで好きでたまらないんですね。それがよくわかります。
(北代靖典)

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