佐伯泰英著「刺客—密命・斬月剣 (祥伝社文庫) 文庫-2001/1/11

2016年1月10日

book-review_shikaku 時代小説はあまり読みませんが、この作家の作品はちょくちょく読破しています。読みやすいのと、内容がおもしろいからです。難しい表現を駆使した凝った作品は、読むと疲れるので、最近は手にも取りません。でも、この作家が描く世界は、なかなか秀逸です。これは密命シリーズの第4作。1作から読まなくても十分に楽しめますね。しかも、この文庫は書き下ろしで、雑誌などの連載ではありません。

主人公は大岡越前の懐刀である金杉惣三郎。大岡の密命を帯びた人物で、めっぽう強い。将軍吉宗の緊縮政策に反旗を翻す謀略が渦巻き、なんと、将軍暗殺の命を帯びた七人の刺客が江戸に放たれる。これを迎え撃つのが、主人公の惣三郎です。それにしても、剣での死闘が凄まじい。主人公はもの凄く強いわけですが、相手も刺客ですから、対等の勝負をするんですね。そしてかろうじて勝つ。その描写がまたうまい!迫力ある殺陣シーンは圧巻!

ご存じの通り、著者は時代小説で売れっ子になりましたが、それまでは売れない作家でした。そのことはいろんなところで紹介されているけど、おさらいで書いておこう。

実家は新聞販売店。当初は家業を継ぐ予定であったが、これを断念して芸術家の道へ。1971年から1974年までスペインに滞在。スペインと闘牛を題材にしたノンフィクション『闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱』と『闘牛はなぜ殺されるか』、小説『ゲルニカに死す』を発表。スペインや南米など、スペイン語圏を舞台にした冒険小説や国際謀略小説を中心に良質のミステリー小説を数多く執筆する。しかし、思うように売れず、ヒットに恵まれず、やがて仕事の依頼が激減。そして最後に編集者から時代小説か官能小説の執筆を勧められたわけです。で、作家として生き残りを図るべく、時代小説への転身を決断。すでに50歳を超えていましたから、並々ならぬ覚悟があったのでしょう。

あるインタビューで本人はこう言っています。
「売れない時の苦しさと比べたら、原稿を受け取ってくれる出版社があって、それが読者に届くことがどんなに幸せか。僕の作品は文学賞の対象になる芸術作品ではない。人間を深く重く掘り下げるものでもない。読者の方に喜んでもらうための600円の商品です。書き下ろし文庫を始める時にそう覚悟しました。そのために僕の毎日はあると思っています」

そうなんです。読者に喜んでもらうための時代小説なんです。
自分の本が売れないと嘆く作家も多いようですが、なぜ売れないのか? その答えを的確に語っているのがわかりますね。

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